紙の本が好きだ。お風呂の中でもベッドの中でも電車の中でも本を読むくらい。紙媒体への愛着は強く、ほとんど執着と言ってもいいくらいで、電子書籍は一冊も持っていない。市川沙央の『ハンチバック』も、もちろん紙媒体で読んだ。一般的なハードカバーの現代日本小説(という表現で伝わるだろうか)よりも、少しだけスリムで小さめ。装画・装幀も私好み。「やっぱり紙の本はいいなあ」、そう思って頁をめくりはじめた。───が、私は、作品を通して重大な気づきを得ることになる。
『ハンチバック』は第169回の芥川賞受賞作。作者は市川沙央、1979年生まれ。早稲田大学人間科学部eスクール人間環境科学科卒業。筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側弯症および人工呼吸器使用・電動車椅子当事者。作者は、「重度障害者(この語彙に差別の意図はない。本人が授賞式会見の最後にそう述べた事実の言葉である。)」として、先天性ミオパチーという重度障害を抱える女性が主人公の作品を書いた。それが『ハンチバック』だ。作者は「読書バリアフリーが進んでいくことを訴えたくて書いた」と述べている。
本の横帯に書かれていたあらすじはこうである。【井沢釈華の背骨は右肺を押し潰す形で極度に湾曲している。両親が終の住処として遺したグループホームの、十畳ほどの部屋から釈華は、某有名私大の通信過程に通い、しがないコタツ記事を書いては収入の全額を寄付し、18禁TL小説をサイトに投稿し、零細アカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」と呟く。ところがある日、グループホームのヘルパー・田中に、Twitterのアカウントを知られていることが発覚し──。】とても興味を興味を惹かれる内容だと、私は思った。設定がリアルだし、何より、この作品に登場する主人公の状況や、生活を「当事者」として書くことのできる人は彼女しかいない。それを「人々の手元に届くところに送り出した」という事実にも、とても大きな意味があるからだ。作品が芥川賞を受賞したときから、いずれ読まなくてはと思っていたが、早めに読んで本当によかった。作品を通して、私は自分の視野の狭さについて気付かされた。私の視野の狭さがどのようなものかというと、まさに作者が訴えたかった「読書バリアフリー」についてである。以下に作中の印象的な部分を引用する。
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